Hiroshi Chu Okubo
大久保宙(Mr MIBURI)USツアー・レポート
98.4/11 ワシントンDC at FREEDOM PLAZA『CHERRY BLOSSOM FESTIVAL』
4/14 ハートフォード at THE HARTT SCHOOL
TEXT:栄幸作
MIBURIは21世紀の音楽を変える!!
本誌読者は、大久保宙という人をご存じだろうか? 弱冠23歳にして、今までアメリカ、中国、日本など250本以上のコンサート活動を行ない、現在はアメリカの東海岸を中心に活動しているアメリカ在住のパーカッショニト、作曲家である。昨年の11月6日に川崎クラブチッタに来日し、和太鼓で知られるロック・ユニット《六三四》と共演して話題を呼んだことも記憶に新しい。そして、彼はYAMAHA JAPANにより開発された《MIBURI》という楽器をアメリカで最初に使った人で、このMIBURIという楽器は手首、肘、肩、足の裏にセンサー(MIDIコントローラー)を付けて、自分の体を動かすことにより、体の動きをセンサーが関知して、音が出る仕組みになっている。つまり何の楽器も持に、ただ体を動かすだけで、あらゆる音が鳴るという何とも摩訶不思議な楽器なのである。文字通り「MIBURI=身振り」というわだ。またMIBURIにはそれ専用の黒いコスチュームも用意されている。コスチューム自体は傍目から見ると少々怪しげだが、彼のステージでのエキセントリックなパフォーマンスから考えるとまんざらでもないだろ(笑)。
「エンターテイメント・パーカッション」と呼ばれる彼の音楽は文字通り、パーカッションがメインであり、MIBURIがメインである。通常、彼のコンサートでは多数の打楽器が用意されているが(ドラム・セット、マリンバなどは当然、最近では植木鉢、木のイス、床、電話帳、フライパン、鍋、消化器、ゴミ箱、石などこの調子で行くと彼はこの世のすべてのモノを打楽器に替えてしまうかもしれない!!)、ツアーの際、移動などで持ち運びが大変な時は最悪の場合、MIBURIさえあればどこへ行っても通用してしまう。そしてそんな彼の音楽を人は《前衛音楽》と呼んだりもするが、それはこのジャンルがまだ日本ではポピュラーになっていないからだろう。
そして何より一番すごいのは、MIBURIはあらゆる音楽と融合できる点にあると思う。そんなわけで彼と共演してきた人たちの音楽ジャンルもさまざまだ。三味線や和太鼓、クラシック、ジャズ、ロックなどなど。ならば、そこにメタリック・ハードコアのギターを入れてもいいだろう!! ということで普段日本のいちファストコア・バンドでギターを弾いている僕は、4月から始まるという彼のUSツアーに参加させてもらうべく半ば強引に彼に言い寄ってみた。あらゆる音楽と共演しているとは言ったものの基本的に観に来ているお客さんは普通の人たちなわけで、ハードコア・バンドのギターの過激な歪みを認知している彼はやや躊躇していたようだが、なんとかOKサインをゲットすることに成功した。「やった、これで元XJAPANのHIDEも大絶賛というMIBURIと共演できるゼ!! 僕も晴れてメジャーの仲間入りだ!!」というワケのワカらない期待に胸を躍らせつつ、4月8日の夕方、ノースウエストの012便で成田空港からワシントンDCへと飛び立った。
今回僕らが出たのは、『チェリーブロッサム・フェスティバル』というお祭りで、アメリカの日本祭りみたいな感じである。場所はフリーダム・プラザというところでやり、コンサートはメイン・ステージと野外の2ヵ所で行なわれた。他の出演者はみんな三味線や日本の伝統芸能などの大御所たちで、最初は少し緊張したが、いざ演奏がはじまってみるとそんな心配はすぐに吹っ飛んだ。彼のフォーマンスは完全に他を喰っていた!! やはりMIBURIはアメリカ人にもバカウケだったのだ!! 僕も負けじと前日に練習した大好きなステイト・クラフトの「LAST HOPE」のリフを拝借して演奏したが、お粗末な僕の演奏は彼の足を引っ張っただけに終わったかもしれない(笑)。
とにかく今回彼のパフォーマンスをアメリカで改めて観て、彼のアーティストとしての才能は本物であると同時に、MIBURIは21世紀の音楽を変えるかもしれない
ということを確信した。彼のパフォーマンスの中には思わず笑ってしまうようなばかばかしいまでの楽しさと、思わず泣いてしまいそうな崇高なまでの悲しさが同位してる。そして最新のテクノロジー楽器を使っているにも関わらず、魂のこもったその演奏は年齢、国を問わず多くの人々を魅了していた。僕には彼の音楽は、今までの音楽の既成概念をブッ壊してるようにも思えた。コンサート終了後、彼は多くの人に囲まれ、サイン&質問攻め、取材などを受けていた。
ワシントンDCでのコンサートが終わった後、僕たちはコネチカット州のハートフォードに飛んだ。ここでの彼は植木鉢やティンパニー、マリンバを叩くなど、やはりパーカッショニストとしての才能も本物であることを確認した。
僕は一応学生であるがゆえ、1週間ほどで帰国したが、彼はこの後、ツアーの続き、レコーディング、そして7月に行なわれるという日本公演の準備などで多忙ということだ。今回ツアーに同行して学んだことは、音楽をやる上での情熱を持つ大切さ、必要性だ。才能あるアーティストの演奏でその片鱗が垣間見れる時とは最高に輝かしい瞬間だと思う。形だけの骨抜きの演奏をするアーティストが多い最近の音楽シーンで、大久保宙はそれができているひとりだと思う。とにかく機会があったらぜひ一度彼のライブに足を運んでみてほしい。本当に音楽の好きな人ならきっと自分の中で新しい音楽の視野が広がっていくに違いない。
ホームページ
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栄 幸作